インタビュー記事紹介

  • ■ 受注業務の電子化を推進

    北海シーリング株式会社(札幌市西区発寒、●011・665・1271)は道内一円を商圏に、主に食品関連のラベル印刷を手掛けている。工場内には平圧、輪転、間欠輪転、半輪転とシール・ラベル印刷で用いるほとんどの種類の印刷機が立ち並ぶ。道内上位の機械導入台数もさることながら、業務効率のアップを目指し、受注関連のFA化を実現した。「少ない投資で多くのメリットを」と語る有原常貴社長に、現状と将来の展望などを聞いた。

    景気の低迷から、昨年は厳しい状況でした。この傾向は今年に入ってからも続いています。ただ、当社としてもここ数年で業務の見直しを図っており、体制は強化されています。このようなご時世だからこそ、業務上の無駄が目立ってきます。これをシビアに判断して、効率よく作業ができるよう改善してきました。 具体的な改善点は生産性の向上や仕事の効率化、合理化を目指しています。ここ数年で最も効果的だったのは、九九年に独自で構築した受注見積もり販売管理システムですね。わたし中心でシステムを組んだのですが、これは自信作です(笑)。

    受注業務の電子化という構想は以前からあったのですが、営業マンが営業に専念できるようになったことで、金額には表せないほどの効果がありました。それまでは営業マンが会社に戻ってから手書きの伝票を処理することで、徹夜作業になることも珍しくありませんでした。このシステムを構築してからは、そのようなことは一切なくなり、当初、想定していた以上のメリットがありました。

    当社の工場では十七台のラベル印刷機が稼働しており、小ロットから大ロットの受注まで可能な設備となっています。

    以前は特定の受注に関して、見込み生産して社内にストックしていたのですが、在庫を当社で抱え込むということは避けたいので、注文がある度に生産するよう切り替えました。その商品自体がなくなってしまったり、ラベルの仕様が変更されたり、お客様に買い上げてもらえなかったりという危険性を未然に防がなければいけませんから。生産は二交代で行っています。二十四時間、ラインが動くこともあります。迅速な納期対応を実現できるよう努力しています。

    品質面については、お客様からのクレームを防止することを最優先に考えています。『北海シーリングのラベルは、この程度の品質』という印象をもたれないように、出荷すべきでない製品は必ず社内でせき止めないといけません。そのために、工程ごとのチェックは欠かせません。常に安定した品質で製品を供給できるような努力は怠りません。

    今後、生産工程をシステム化して、各部署にチェック機構を設ける方針です。具体的には工程情報をPOSで管理し、一元化するというプランです。すべての工程情報が履歴として確認できるようになり、従来、現場で確認していたものが、端末で確認できるというメリットが生まれます。ノートパソコンをもった営業マンが出先から工程情報を把握することも可能になりますしね。投資額は少ないですが、得るものは大きいでしょう。

    ラベルを商品の顔として考えると、やはりオフセット印刷なみの高精細な印刷が求められるでしょう。例えば、パッケージの技術水準も向上しています。それにラベルを貼り付けるなら、少なくとも同程度の品質の高さが求められますよね。ですから、当社ではオフセット印刷を指標として、一七五線の樹脂凸版を製作しています。もちろん受注の内容によっては一五〇線や一三三線というケースもあります。ただ線数が細かければ良いというわけでもありませんが、今後も高精細化を追求したいと思っています。

    こうした考えから試作品としてですが、二三〇線までの印刷を可能にしています。凸版という印刷方式に限界は感じていません。オフセット印刷機を導入するよりも、現状の設備とノウハウで勝負したい。顧客ニーズもより高精細な印刷にシフトしています。技術革新の意味からも、樹脂凸版のCTPには期待しているのです。

    「苦しくて」「切なくて」「楽しい」というのが率直な気持ちです。この業界に入って常に多くのアイデアを考え続けてきました。自分の思いを形にしたものが、現在まで良い結果を出しているというのは非常に嬉しいことです。将来的な秘策というのも、胸のうちにはたくさんあります。この望みを実現してくれる従業員がいるわけですから、社長としては非常に心強いです。

    北海シーリングという船に乗っていると例えれば良いのでしょうか。不安な気持ちはありません。心をひとつにしていきたいと思います。北海道のシール・ラベル業界では後発でしたが、技術面もようやく成熟したと自負しています。さらに努力することで、顧客から信頼をおかれる会社を目指したいと思います。

  • ■ 利益率向上と雇用促進を 三條機械製作所の「JNAS」導入で効率化図る

    同社は道内を商圏とし、製造するラベルの8割以上を食品分野が占め、このほかにもイベント向け粘着シートなども受注している。しかし2020年以降は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、イベント開催の自粛を受け、案件の多くが消失する厳しい状況に直面した。 直近のビジネス動向について、有原社長は「食品向けラベルが手堅く、最も厳しかった20年を乗り越えることができた。現在は行動制限の緩和が進み、収益も回復傾向にあるが、今度は粘着紙やインキなど材料価格の急騰が利益率を圧迫するなど、厳しい経営環境は続いている」と話す。

    同社では安定した企業成長を目的に、オペレーターの世代交代を積極化。近年は、地元の若者を毎年2人ずつ雇用することで、製造現場の若返りを図る。さらに従業員が業務に専念できる労働環境づくりに注力。「雇用確保のためにも収益は伸ばさなければならない。しかし昨今の材料価格上昇や働き方改革への取り組みなどハードルが少なからず存在する。加えて印刷・加工の技術継承には時間と育成のためのコストが求められる。そのような背景から、当社では最適な設備投資によってオペレーターの負担を軽減し、雇用促進を推進する方針」(有原社長)としている。 同社が保有している印刷機は、凸版輪転機が2台、凸版間欠機が9台、平圧機1台の計12台。特に凸版間欠機は今夏、機種の入れ替えを行い、三條機械製作所が新たに開発した「JNAS」を導入した。

    同機種を選択した理由について、有原社長は「JNASに搭載されている自動見当調整・監視システム『ARCS』に興味を抱いた。メーカーの話によると、世界的なサプライチェーンの混乱によって部品調達が厳しく、納品に遅れが生じていると聞き、テストも行わずに導入を決断した。もっとも三條機械製作所の機種はこれまでも設備しており、信頼していたこともあって即決したのは事実」とコメントする。 ARCSの特徴は自動的に見当合わせを行う「ニアポイション機能」にある。同機能は送り長を数値で入力すると、あらかじめラベルの余白に印刷された〝色玉〟の中心をカメラが認識し、数値に従って各ユニットを制御して見当を合わせる。JNASの稼働中に見当ズレが生じても、自動補正することから、オペレーターのスキルに依存せず高精度な印刷を可能にする。

    製造担当者は「予想していた以上に優れていると実感する。設備したJNASは5色+裏1色機だが、誰が扱っても30~40ショット程度で見当が合うため、損紙を大幅に削減できたほか、ジョブチェンジのダウンタイムも短縮。当社が製造するラベルは近年、多品種小ロット化の傾向にあるが、ARCSによって作業の効率化が図られ、残業時間も減らすことができた。省エネ化にもつながり、利益率も向上している」と語る。

    同社では今後の展望として、ラベル市場の変化をいち早く察知し、最適な設備投資を行うことにより、作業の効率化を推進する。有原社長は「従業員が安心して作業に専念できる企業に優秀な人材が集まることで、将来の成長につながると考える。そのためにも利益率向上に有益な設備を積極的に導入し、事業の拡大を目指したい」と語った。

  • ■ エプソン製新型水性IJデジタル印刷機を設備 北海シーリング(株)

    有原
    道内経済にとって昨年は、多くの自然災害に見舞われ、厳しい状況の中で推移した1年だったと感じています。中でも、9月に発生した北海道胆振東部地震の被害は大きく、大規模な停電によって道内の経済活動が一時的にストップしたほか、直後から訪日外国人などを中心とする観光客が一気に遠のきました。もっとも冬からは回復し、11月から今年3月までの道内観光客数はいずれも前年を上回るなど、インバウンド効果は継続しています。 一方、道産食品全体では、一次産業による素材として、またそれらを使用した食品や飲料・酒類、高級な農水産加工品などがブランド力を高めていますが、これらのラベル需要に関しては、道外・海外に出荷後商品化され製造に至る場合もあるため、道内のラベル業界全体が活況となるまでには至っていません。特に最近では、観光資源とともに道産品を求めアジア圏の資本が道内に算入するケースも増えています。

    有原
    地震の影響もありますが、それに加えて昨年は、2度の台風襲来によって農産物の一部が減産したほか、水産の漁獲量も近年の低迷状態が続いています。理由として気候変動や海水温度の上昇などが挙げられていますが、関連の水産加工分野が打撃を受けているのは事実です。 必然的に、ラベル市場も関連分野への影響は大きく、当社を含めた道内のラベル印刷会社は、収益アップに苦慮している状況にあるのではないでしょうか。

    有原
    当社が製造するラベルの需要分野は80%が食品分野で、特に水産加工品や農産物の占める割合は高いといえます。これらの分野に関する近年のニーズとして挙げられるのが、優れたデザイン性と多品種小ロットへの対応。消費者への訴求力を高めるためには、商品のラベルやパッケージに対するデザイン性と機能性が求められます。 先ほども申し上げた通り北海道では、中国や東南アジア、あるいはニセコに対するオーストラリアなどといったアジア・パシフィック地域からの観光客が増加していますが、これまでのような商品を数多く購入する「爆買い」は落ち着き、むしろ北海道の地を体感し、食の安心やブランド、より北海道らしさが感じられる商品の購買力が高いといった傾向が強いといえるでしょう。

    柴田
    一方、多品種小ロットへの対応に関してですが、北海道はシーズンによって印象が変わるため、それに即してラベルデザインの変更が求められます。 例えば、夏は広大な自然や田園風景、冬は一面の雪原、といったイメージであり、それに付随して、夏に販売される商品の色合いは青や緑が、また冬の商品は白を基調としたデザインなどが挙げられます。特に東南アジアなど熱い地域の観光客は、冬の期間、雪を見に訪れることが多いため、より訴求効果を高める目的で、デザイン変更を依頼されるのです。

    柴田
    設備状況に関して、コンベンショナル機は平圧機と凸版輪転機がそれぞれ2台ずつ、凸版間欠機が7台の計11台です。また、デジタル印刷機については今年2月、エプソン製のSurePressL―4533AWを新たに導入。従来機である「同L―4033A」からの入れ替えとなりますが、これにより、高い再現性と多品種小ロットといった双方への対応力が向上したと認識しています。

    有原
    L―4033Aを設備したのは、2011年4月です。もっともそれ以前から、デジタル印刷技術に注目はしていたのですが、どちらかといえば「スキルレス」といった特徴に関して、ラベルユーザーがデジタル印刷機を導入するようになった場合「受注減に繋がるのでは」といった危機感を覚えていました。だからこそ先行して設備すべきと考えていたちょうどそのころ、SurePressが海外で先行発表されエプソンさんへ問い合わせたところ、印刷に対する色の再現性とイニシャルコストの双方で満足できる機能だったことから、国内発表後に導入を即決したのです。SurePressを導入したラベル印刷会社の中では早期だったと思います。そのため、ホワイトインクは搭載されていませんでした。

    柴田
    米ADSIの後加工機「CENTRA」を設備し、抜きからカス上げ、スリット加工を手がけているほか、伊カルテスのレーザーダイカットシステム「LASER―350」を導入し、オンデマンドでの抜き加工を行っています。このほかに、コンベンショナル機を活用するケースもあります。

    有原 ラベル業界では、ラベル生産ラインにおいてワンパスが主流であり、後加工が別工程のデジタル印刷機は、デメリットと認識されていますが、個人的には多品種小ロット・特殊なラベル向けの機種であり、むしろ印刷と加工を別工程でこなす方が効率的ではないでしょうか。

    有原
    設備してから約8年が経過し、ほぼ計画年数に達したため入れ替えのタイミングを迎えていたことが挙げられます。コンベンショナル機ならばまだまだ稼働させるところではありますが、デジタル印刷機の進化は著しく、ソフトや機能はさらに向上しています。そのような観点から、L―4533AWの導入へと至りました。 L―4033Aと基本設計が大きく変化したわけではありませんので、これまでと同様に稼働させています。もっとも従来機は、ホワイトインクが搭載されていなかったため、透明PET基材の高付加価値ラベルの製造でメリットを享受できるようになったのは大きいといえます。また、基材によってはベタのカスレやスジなどの発生が改善された印象を受けます。微細文字や細線に関しても、これまで以上に印刷品質が向上したのでは。

    柴田 インクの乾燥が早くなったイメージがあります。実際に、印刷スピードは従来機よりもアップしており、最大で毎分6メートルでも稼働させるケースもあり、生産効率が高まったといえます。また、搬送や印刷機構などのカバーを開けることなく機体の内部を確認できるように、窓が大きくなったほか、LEDランプで視認性も良くなりました。そして「オートクリーニング機構」が改善されたことは、とてもありがたく感じています。 SurePressは、累計で一定時間稼働させると、IJヘッドを自動的にクリーニングする機構が搭載されています。クリーニング時間は5~10分間ですが、従来機における稼働の累計時間は4時間ごとであり、たとえ印刷中であっても停止するのです。ですから、連続稼働させている時にストップされることは、オペレーターの立場からすれば、ストレスとなっていました。一方、L―4533AWは稼働の累計8時間まで延びたこともあり、1日の生産計画といった点で、作業の効率化が格段に図られることとなりました。

    柴田
    専任1人と私の計2人です。専任の担当者は当初、コンベンショナル機のオペレーターとして入社し2年間の経験を積み、その後7年間にわたって現在のデジタル印刷部門を担当しています。デジタルとコンベンショナルといった特徴の異なる印刷機に関するノウハウを習得することは、デジタル印刷機を有効に活用するためにも重要です。

    有原 ラベル業界では現在、課題の1つとして人手不足が挙げられています。オペレーターの育成には、長い実務経験とそれにかかるコストが不可欠ですが、今後の経営環境を鑑みた場合、それは決して容易なことではないでしょう。その点、デジタル印刷技術は企業としてのノウハウを蓄積する必要はありますが、オペレーション自体はシンプルであり、短期間で使いこなすことができます。いわばデジタル印刷機は「人材不足解決」としての可能性も秘めていると考えています。

    有原
    多品種小ロットに対するラベルの受注は今後、さらに増加すると予測します。そのために当社ではこれまで、デジタル印刷だけでなくコンベンショナル機に関しても、そのニーズに対応できる体制強化に努めてまいりました。直近でも、凸版間欠機も入れ替えを行っています。そのような中にあって、SurePressが手がけるラベルとは、2000枚以下のフルカラー印刷といったところですが、そのほかにも当社が設備するコンベンショナル機では対応できない300×600㍉など大判のラベルをはじめ、1枚ごとに内容が異なる可変データのラベルなども印刷しています。さらに詳細を明かすことはできませんが、過去に印刷部門の改編以降から、レタープレス方式の印刷機では対応できず、他の業界にシェアを奪われていた仕事を再び取り戻すことができたのは、大きなメリットといえるでしょう。 デジタル印刷機を導入し、実際に活用して理解できたのは、多品種小ロット対応だけでなく、ラベル印刷会社にとって新たな市場開拓の可能性が高いといった点。それを追求するためにも、当社がこれまで培ったSurePressのノウハウに加え、L―4533AWをさらに使い道を広げる努力を継続したい。

    柴田
    SurePressのデジタル印刷技術を活用し、多品種小ロットかつ高付加価値といったニーズに対応するラベル製造を目指す所存です。 また生産部門として、効率化と技術ノウハウの向上に努め、機能性を付加した工業系ラベルなどへの製造に対しても取り組みたいと考えています。

    有原
    先ほども申し上げたとおり、デジタル印刷技術は新たな需要の開拓と、ラベル業界が抱える人手不足・育成といった課題を克服できると認識しています。そのような理由から、デジタル印刷機は今後、さらに導入が進むと予測しています。また、SurePressを設備されているラベル印刷会社の皆さんと、情報を共有化しネットワークが構築され、遠隔地での生産協力などデジタル印刷の可能性をさらに広げられるような活動ができれば、と期待しています。 さらに、デジタル印刷だけでなくコンベンショナル機でも、当社がこれまで培った技術ノウハウを生かし、ナローウェブのパッケージなど、ラベルとは異なる分野の商圏を獲得できるようなビジネスを推進したい。それは、工夫ひとつで可能であると確信を得ています。当社が目指すビジネスとは、人々が生活を営む際に、有益な製品を開発・ご提供すること。特にラベルの持つ商品の訴求効果や機能性などといった特徴をブランドオーナーに対して積極的にPRする必要があると認識しています。その実現に向けて、製造部門と営業部門の双方が連携しつつ、企業としてのさらなる成長を目指す所存です。