インタビュー記事紹介

  • ■ エプソン製新型水性IJデジタル印刷機を設備 北海シーリング(株)

    有原
    道内経済にとって昨年は、多くの自然災害に見舞われ、厳しい状況の中で推移した1年だったと感じています。中でも、9月に発生した北海道胆振東部地震の被害は大きく、大規模な停電によって道内の経済活動が一時的にストップしたほか、直後から訪日外国人などを中心とする観光客が一気に遠のきました。もっとも冬からは回復し、11月から今年3月までの道内観光客数はいずれも前年を上回るなど、インバウンド効果は継続しています。 一方、道産食品全体では、一次産業による素材として、またそれらを使用した食品や飲料・酒類、高級な農水産加工品などがブランド力を高めていますが、これらのラベル需要に関しては、道外・海外に出荷後商品化され製造に至る場合もあるため、道内のラベル業界全体が活況となるまでには至っていません。特に最近では、観光資源とともに道産品を求めアジア圏の資本が道内に算入するケースも増えています。

    有原
    地震の影響もありますが、それに加えて昨年は、2度の台風襲来によって農産物の一部が減産したほか、水産の漁獲量も近年の低迷状態が続いています。理由として気候変動や海水温度の上昇などが挙げられていますが、関連の水産加工分野が打撃を受けているのは事実です。 必然的に、ラベル市場も関連分野への影響は大きく、当社を含めた道内のラベル印刷会社は、収益アップに苦慮している状況にあるのではないでしょうか。

    有原
    当社が製造するラベルの需要分野は80%が食品分野で、特に水産加工品や農産物の占める割合は高いといえます。これらの分野に関する近年のニーズとして挙げられるのが、優れたデザイン性と多品種小ロットへの対応。消費者への訴求力を高めるためには、商品のラベルやパッケージに対するデザイン性と機能性が求められます。 先ほども申し上げた通り北海道では、中国や東南アジア、あるいはニセコに対するオーストラリアなどといったアジア・パシフィック地域からの観光客が増加していますが、これまでのような商品を数多く購入する「爆買い」は落ち着き、むしろ北海道の地を体感し、食の安心やブランド、より北海道らしさが感じられる商品の購買力が高いといった傾向が強いといえるでしょう。

    柴田
    一方、多品種小ロットへの対応に関してですが、北海道はシーズンによって印象が変わるため、それに即してラベルデザインの変更が求められます。 例えば、夏は広大な自然や田園風景、冬は一面の雪原、といったイメージであり、それに付随して、夏に販売される商品の色合いは青や緑が、また冬の商品は白を基調としたデザインなどが挙げられます。特に東南アジアなど熱い地域の観光客は、冬の期間、雪を見に訪れることが多いため、より訴求効果を高める目的で、デザイン変更を依頼されるのです。

    柴田
    設備状況に関して、コンベンショナル機は平圧機と凸版輪転機がそれぞれ2台ずつ、凸版間欠機が7台の計11台です。また、デジタル印刷機については今年2月、エプソン製のSurePressL―4533AWを新たに導入。従来機である「同L―4033A」からの入れ替えとなりますが、これにより、高い再現性と多品種小ロットといった双方への対応力が向上したと認識しています。

    有原
    L―4033Aを設備したのは、2011年4月です。もっともそれ以前から、デジタル印刷技術に注目はしていたのですが、どちらかといえば「スキルレス」といった特徴に関して、ラベルユーザーがデジタル印刷機を導入するようになった場合「受注減に繋がるのでは」といった危機感を覚えていました。だからこそ先行して設備すべきと考えていたちょうどそのころ、SurePressが海外で先行発表されエプソンさんへ問い合わせたところ、印刷に対する色の再現性とイニシャルコストの双方で満足できる機能だったことから、国内発表後に導入を即決したのです。SurePressを導入したラベル印刷会社の中では早期だったと思います。そのため、ホワイトインクは搭載されていませんでした。

    柴田
    米ADSIの後加工機「CENTRA」を設備し、抜きからカス上げ、スリット加工を手がけているほか、伊カルテスのレーザーダイカットシステム「LASER―350」を導入し、オンデマンドでの抜き加工を行っています。このほかに、コンベンショナル機を活用するケースもあります。

    有原 ラベル業界では、ラベル生産ラインにおいてワンパスが主流であり、後加工が別工程のデジタル印刷機は、デメリットと認識されていますが、個人的には多品種小ロット・特殊なラベル向けの機種であり、むしろ印刷と加工を別工程でこなす方が効率的ではないでしょうか。

    有原
    設備してから約8年が経過し、ほぼ計画年数に達したため入れ替えのタイミングを迎えていたことが挙げられます。コンベンショナル機ならばまだまだ稼働させるところではありますが、デジタル印刷機の進化は著しく、ソフトや機能はさらに向上しています。そのような観点から、L―4533AWの導入へと至りました。 L―4033Aと基本設計が大きく変化したわけではありませんので、これまでと同様に稼働させています。もっとも従来機は、ホワイトインクが搭載されていなかったため、透明PET基材の高付加価値ラベルの製造でメリットを享受できるようになったのは大きいといえます。また、基材によってはベタのカスレやスジなどの発生が改善された印象を受けます。微細文字や細線に関しても、これまで以上に印刷品質が向上したのでは。

    柴田 インクの乾燥が早くなったイメージがあります。実際に、印刷スピードは従来機よりもアップしており、最大で毎分6メートルでも稼働させるケースもあり、生産効率が高まったといえます。また、搬送や印刷機構などのカバーを開けることなく機体の内部を確認できるように、窓が大きくなったほか、LEDランプで視認性も良くなりました。そして「オートクリーニング機構」が改善されたことは、とてもありがたく感じています。 SurePressは、累計で一定時間稼働させると、IJヘッドを自動的にクリーニングする機構が搭載されています。クリーニング時間は5~10分間ですが、従来機における稼働の累計時間は4時間ごとであり、たとえ印刷中であっても停止するのです。ですから、連続稼働させている時にストップされることは、オペレーターの立場からすれば、ストレスとなっていました。一方、L―4533AWは稼働の累計8時間まで延びたこともあり、1日の生産計画といった点で、作業の効率化が格段に図られることとなりました。

    柴田
    専任1人と私の計2人です。専任の担当者は当初、コンベンショナル機のオペレーターとして入社し2年間の経験を積み、その後7年間にわたって現在のデジタル印刷部門を担当しています。デジタルとコンベンショナルといった特徴の異なる印刷機に関するノウハウを習得することは、デジタル印刷機を有効に活用するためにも重要です。

    有原 ラベル業界では現在、課題の1つとして人手不足が挙げられています。オペレーターの育成には、長い実務経験とそれにかかるコストが不可欠ですが、今後の経営環境を鑑みた場合、それは決して容易なことではないでしょう。その点、デジタル印刷技術は企業としてのノウハウを蓄積する必要はありますが、オペレーション自体はシンプルであり、短期間で使いこなすことができます。いわばデジタル印刷機は「人材不足解決」としての可能性も秘めていると考えています。

    有原
    多品種小ロットに対するラベルの受注は今後、さらに増加すると予測します。そのために当社ではこれまで、デジタル印刷だけでなくコンベンショナル機に関しても、そのニーズに対応できる体制強化に努めてまいりました。直近でも、凸版間欠機も入れ替えを行っています。そのような中にあって、SurePressが手がけるラベルとは、2000枚以下のフルカラー印刷といったところですが、そのほかにも当社が設備するコンベンショナル機では対応できない300×600㍉など大判のラベルをはじめ、1枚ごとに内容が異なる可変データのラベルなども印刷しています。さらに詳細を明かすことはできませんが、過去に印刷部門の改編以降から、レタープレス方式の印刷機では対応できず、他の業界にシェアを奪われていた仕事を再び取り戻すことができたのは、大きなメリットといえるでしょう。 デジタル印刷機を導入し、実際に活用して理解できたのは、多品種小ロット対応だけでなく、ラベル印刷会社にとって新たな市場開拓の可能性が高いといった点。それを追求するためにも、当社がこれまで培ったSurePressのノウハウに加え、L―4533AWをさらに使い道を広げる努力を継続したい。

    柴田
    SurePressのデジタル印刷技術を活用し、多品種小ロットかつ高付加価値といったニーズに対応するラベル製造を目指す所存です。 また生産部門として、効率化と技術ノウハウの向上に努め、機能性を付加した工業系ラベルなどへの製造に対しても取り組みたいと考えています。

    有原
    先ほども申し上げたとおり、デジタル印刷技術は新たな需要の開拓と、ラベル業界が抱える人手不足・育成といった課題を克服できると認識しています。そのような理由から、デジタル印刷機は今後、さらに導入が進むと予測しています。また、SurePressを設備されているラベル印刷会社の皆さんと、情報を共有化しネットワークが構築され、遠隔地での生産協力などデジタル印刷の可能性をさらに広げられるような活動ができれば、と期待しています。 さらに、デジタル印刷だけでなくコンベンショナル機でも、当社がこれまで培った技術ノウハウを生かし、ナローウェブのパッケージなど、ラベルとは異なる分野の商圏を獲得できるようなビジネスを推進したい。それは、工夫ひとつで可能であると確信を得ています。当社が目指すビジネスとは、人々が生活を営む際に、有益な製品を開発・ご提供すること。特にラベルの持つ商品の訴求効果や機能性などといった特徴をブランドオーナーに対して積極的にPRする必要があると認識しています。その実現に向けて、製造部門と営業部門の双方が連携しつつ、企業としてのさらなる成長を目指す所存です。